はてなの決心高度

飛行機は初代塗装の日航DC-8が好きです。ちなみに飛行機の話題はゼロです。

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生活動線

京都にデザイナーが手掛けた「9 hours(ナインアワーズ)」というカプセルホテルがある。今は全国各地に何か所か同様のデザイナーズなカプセルホテルや、通常のカプセルホテルを買収して会社の規模を拡大させている。近頃、カプセルホテルは昔とイメージの異なる、客室がきれいなところが増えたというネット記事をあちこちで見かける。このホテルは、その先駆けとなったところである。オープンした当初はSF世界の現実化のようだと絶賛された。

そして、今は海外のサイトで紹介されて、外国人からも同様の絶賛を受け、海外ではこの種の簡易宿所は珍しいうえに宿泊費が安価なためか宿泊する客が増えているという。先日、このホテルに宿泊した。この時も、海外で絶賛されていたためか客のほとんどは外国人だった。

外国人には珍しい宿泊形態なのか、彼らは往々にしてくつろいでいる印象だったが、従来型のカプセルホテルに慣れている私には窮屈に感じるものがあった。それは、ホテルを設計したデザイナーが企図した動線どおりに動けないからだった。

ホテルとしての方針は、チェックイン後に荷物をロッカーに置き、シャワーを浴びてそのまま寝て、翌朝出かけるというものになっている。そして、床を見ていても、それ通りに誘導の絵が描かれている。

しかし、荷物をすべてロッカーに置いて館内で動くのは難しいと感じる。客室はコンセント完備である。いわゆるスマートフォンが普及しだす前の時期の設備だが、携帯を持ち歩くことは当たり前になりつつあった時期なのでコンセントがついている。携帯を持ち歩いて充電したり、そこでコンテンツをテレビ代わりに見たり、メール送受信をするといった用途は想定していたようだ。だが、施錠のできない客室に持ち込んでもトイレやシャワーで離れるときには置いたままというわけにもいかず、持って歩いたりロッカーから入れたり出したりする羽目になる。コンセントを要する機器を持ち込むことによって、デザイナーが企図した寝るためだけの場所というコンセプトが破たんするし、かといって充電できないと利用者も困るのである。

また、館内に時計が無い。そのために、歯を磨いていて現在の時間が分からないのでフロア内をあちこち探したのだが、結局時間が分からずに時計をロッカーから取り出してはめて使う羽目になった。いちいち出したり入れたりが面倒なので、カプセルホテルではキャビン持ち込み用に小さい布袋に電子機器やケーブルや時計などを入れて、常に持ち歩くようにしていたが、「9hours」では一層必要だと思った。

また、開業して数年たつと白を基調とした設備は痛みが目立つ。掃除はこまめにしているようで、汚れが目立つわけではなかった。ただ、ロッカーのカギを何か所か交換していたり、ホテルのHPの写真はあくまでイメージに過ぎない。

特に、運用方針が若干変わったようで、シャワー室横のセルフで持っていくタオル置き場は使われていなかった。もはや壁から規則正しく生えているオブジェに過ぎなかった。これは、「常識の範囲内」で使うという基本的なルールが既に破たんしていたのだろう。外国人利用者が増えると、日本的な常識の範囲も通用しなくなるのかもしれない。

また、本来ビジネススペースとされていた場所も海外からの旅行者の大きな荷物を置くスペースになっていた。外国人旅行者が増える一方で、ホテル本来のロッカーでは彼らの大荷物は収めきれなかったのだろう。従来のカプセルホテルでは客室通路などに荷物を置く行為は禁止されているが、ここでは黙認されていて客室にも彼らのスーツケースが置かれていた。このほうがロッカーと行き来しなくてよいので楽と言えば楽である。

この辺でも、シンプルに終電を逃した者が荷物をロッカーに入れてシャワー、就寝、翌朝出発というデザイナーが企図した動線は破綻している。当初のコンセプト通りに設備を運用できなくなっている面が目に付いた。外国人が評価しているのはスタイリッシュな設備と簡易宿所という珍しい宿泊形態であって、スタイリッシュな動線ではない。

そして、デザイナーズ物件は曲者だと思ったのは、シャワーを浴びているときだ。水栓の部品が欠落しているのかと思ったら、元からシンプルなデザインだった。その形状だと石鹸で濡れた手では滑って回しにくいので、お湯を出すのに手間取った。このホテルにはこんな形態のシャワールームが数室しかない。

従来のカプセルホテルでは、公衆浴場のようにサウナや大浴場を併設して、宿泊以外にも仮眠で滞在する方法を提供して収益を拡大している。シャワールームだけ利用するプランもあるようだが、実質的に宿泊客の客室販売率が収益を左右するつくりになっている。ボイラーで常時お湯を沸かしていても、宿泊客が利用しない時間はそれらの設備は稼働しないままランニングコストだけかかる仕組みになっている。事実、このホテルは開業して数年で一旦事業停止になり、コンサルタントを本体とする運営会社の運営に変わっている。

近頃あちこちでコンセプトを押し付ける施設が目に付く。だが、人間の生活は運営者が考えているほどに簡単にパッケージングしたり思い通りに誘導できるものではない。

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